行政のDX〜インド国民13億人のマイナンバー「アダール」の目覚ましい成果!日本のマイナンバーは?

 

❏インドの「マイナンバー」(Aadhaar)の成果

(インド国民・13億人にデジタルIDを付番)

❏3つの生体認証システム

❏導入の経緯

❏インディア・スタック(棚)

❏オープン(公開)APIが起業の原動力

❏まとめ

 

 

インド版「マイナンバー」(Aadhaar=アドハ−またはアダール)の成果

インドでは国民・13億人にデジタルIDを付番する事により、社会の急速なデジタル化が進んでいます。インドは2009年にインド版マイナンバー「Aadhaar(アドハ−またはアダール)を導入。付番についての法的な義務がないにも関わらず、13億人超の人口の9割を超える12.5億人が登録をしています。生体認証を伴う世界最大のデジタルプラットフォームとして、インドのデジタル経済の土台となっています。

 

 

3つの生体認証システム

国民1人1人に固有の12ケタの番号(ID)を振り、それぞれの番号と個人とを顔面認証、(10本の指の)指紋認証、(2つの目の)虹彩認証の3つの認証システムを用いて紐づけています。12ケタの番号の付番は、日本のマイナンバーと同じです。が、生体認証が出来ることが日本のマイナンバーとまったく違う所。「生体認証」機能により、ネット上での本人確認が可能・容易となりました。また、ほとんど全ての国民がAadhaarに登録した事により、キャッシュレス、ペーパーレスなどの社会のデジタル化が急速に進んでいます。

 

 

導入の経緯

インドの社会構造は民族、言語、宗教の多様性もあって多層的で非常に複雑です。政府が貧困層に補助金(給付金)を支給しようとしても、州から自治体、地域組織などを経ていくうちに大部分を中抜きされていました。最悪のケースでは1万ルピーの補助金のうち本人に届いたのは8ルピー(0.08%)だったという事例もあります。また、手続き自体も煩雑で、補助金の申請のやり直しや申請漏れなどが頻発していました。

 

日本でも給付金の申請が問題となりました。が、Aadhaar導入前のインドは、それ以上の大きな課題を抱えていました。この状況に対して、テクノロジーを通じてインドを良くしていきたいとの思いを持つインドのトップクラスのエンジニアがボランティアで参画し、構想を練るところからインドのデジタル化は始まりました。

 

そして、2015年にモディ首相によって発表された「デジタル・インディア構想」によって、大規模な予算措置と包括的なデジタル戦略が打ち出されて以降、インド社会での普及が本格化しました。

 

また、インドのソフトウェア受託開発大手インフォシス社(1981年創業)の共同創業者であるナンダン=ニレカニ氏を、政策の実行部隊の責任者に指名。ニレカニ氏は2009年6月にインフォシスの共同会長を辞任して、インド連邦政府の固有識別番号庁の初代長官を努めました。また、電子個人認証システムの開発には、グーグル出身者やシリコンバレーで長年活躍したインド人起業家とエンジニアが関わっています。このような世界の最先端のサービス開発を行う人材との繋がりが、インドのデジタル化の特徴となっています。

 

 

 

インディア・スタック(棚)

インド政府は、このインド版マイナンバー(=Aadhaar)をベースに、オンラインによる本人確認や電子署名、決済といった機能を民間企業も活用できるようにするデジタル基盤「インディア・スタック(棚)」を整備しました。主な機能は以下の①〜⑤です。

 

①   国民識別番号(Aadhaar=アダール):いつでも、どこでも、誰でも認証
②電子本人確認(eKYC):本人確認プロセスを電子化・ペーパーレス化
③統一送金インターフェース(UPI):銀行口座間の送金を実現
④電子書庫(Digilocker):電子文書を検索・保存・共有
⑤電子署名(eSign):あらゆる文書に電子署名

 

民間企業が独力で、顧客のID管理、本人確認、送金、文書交換、署名といったシステムを容易する事は難しい。一方、巨大ITプラットフォーム企業への過度な依存を避けたい。そんな思いから、インディア・スタックは政府をバックボーンとすることで信頼性・安全性・中立性が担保されたデジタルインフラを、低コストかつ利便性に富む形で提供しています。

 

  • 国民識別番号(Aadhaar=アドハ−)

銀行口座を持たない低所得層がデジタルIDを取得。口座を開設できるようになったことにより、政府の公的給付に伴う国民経済の無駄が省かれました。のみならず、金融市場の潜在顧客層も数億単位で拡大しました。

 

  • 電子本人確認(eKYC)

窓口での本人確認にかかる書類手続きが大幅に簡素化できるようになりました。例えば金融機関の口座開設コストが1/5、時間が1/36に。携帯電話の登録も、従来は1日以上かかっていたのが10分まで短縮されました。

 

  • 統一送金インターフェース(UPI)

カードリーダーを必要としないスマートフォン決済が急速に普及し、一気に社会のキャッシュレス化が進展。いまやあらゆる商店、荷車を押す露天商に至るまでの店頭にバーコードが張り出されており、スマートフォンでの決済が可能となっています。クレジットカードの手数料を払えない商店、クレジットカードを持てない低所得層にもキャッシュレス化の恩恵が行き届くようになりました。

 

  • 電子書庫(Digilocker)

紙の電子的なコピーではなく、デジタルの「原本」が保管できることが最大の特徴。デジタルデータの真正性、信頼性が政府によって担保されており、格納されたデジタルデータは、裁判の証拠としても用いられる。運転免許証などの証明書類の保管と資格の確認にも利用されている。証明書類の提出やチェックが不要となり、ペーパーレス化と業務効率化に寄与している。エクセルファイルの格納も可能。保管された書類は、本人の同意なしに閲覧はできません。

 

  • 電子署名(eSign)

書面での署名を省略できる。これがeマーケットプレースの拡大に寄与しています。G to Bビジネス(政府−民間企業)の、手続きの煩雑さの解消と調達期間の短縮に繋がっています。また、民間企業においても、ローンの仲介やマッチングなど、様々な商取引に使用されています。

 

 

 

オープン(公開)APIが起業の原動力

インディア・スタック自体は、APIの棚、いわば「機能の引き出し」ですが、それが個人識別番号(アダール)と銀行口座、携帯番号を連携させ、相互に紐付いている事を保証しています。この仕組は公的給付にとどまらず、民間企業のビジネスでも広範囲に役立てられています。インディア・スタックがあれば、スマートフォンと生体認証でKYC認証(本人確認)が出来ます。この仕組を活用することで、従来は実現できなかったようなビジネスモデル(例えば、金融、保険、観光、不動産、ヘルスケア、交通などの様々な分野での新たなサービス)を開発され、スタートアップ企業の創業、拡大を後押ししています。

 

 

まとめ

日本のマイナンバーカードの交付枚数は3,597万枚で交付率は28.3%(2021年4月1日現在)。交付率が上がったとはいえ、普及はまだまだです。本人確認に生体認証を取入れたインドの「Aadhaar」の事例を好事例として調査研究し、マイナンバーのアーキテクチャそのものを見直し、「リープフロッグ」を狙う覚悟・構想で、日本のデジタル戦略を見直す必要があると考えます。